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高野麻紀展


青山の300日画廊のドアを開けて中に入ると、奥の小部屋に作品が設置してある。
奥の小部屋と言うより画廊の梁の向こう側の空間と行った方が正しいかもしれない。
いずれにしても狭い空間にガラスと鏡で構成された作品がある。
これは、問題作だと思う。

高野さんの作品はモノトーンで無駄のない、どちらかといえばストイックな表情を常に見せている。
でも、人を拒絶したりする類いの禁欲さとは正反対である。
きちんと人と向かい合う誠実さがそこにはある。
誠実さには温度もある。
人におもねったり甘えたりしないで、今在る自分を等身大で見せてくれる。
この誠実さと向かい合うこと、それが彼女の作品を見る楽しさかもしれない。

平面から出発した高野さんは、近作ではガラスとコンクリートを素材に制作している。
今回は3mm厚のガラスと塩ビの鏡を使っている。
ガラスが1枚、塩ビの鏡が1枚。
ただそれだけの作品である。
ところが、この作品は驚くほど豊饒である。
ずーっと観ていても全然飽きない。
現代美術が面白いのはこういう作品と出会えるからである。
これはほとんど仕掛け(タネ)の無いマジックである。
作品化までの作家の永くて深い思索が、このシンプルな作品に現れている。
そして、観る者はそこで自由にその思索と戯れることが出来る。
この作品にはそういった自由度(拡がり)がある。



作品の全景です。
床に塩ビの鏡(912×1100mm)。
床から1400mmの高さに床と平行にガラス(910×810mm)が設置してあります。



左のガラスは透明なテグス数本で支えられています。
両側の壁にテグスを固定して渡してあります。
テグスのハンモックに対して直角にガラスが載っているような状態です。
ガラスが自立していればこのテグスは必要のないものですが、それが必要になった時、テグスは作家の思索に組み込まれました。
ですから、正確に言えばこの作品はガラスと鏡とテグスで成り立っています。
右は塩ビの鏡。
非常に薄いものです。





この写真は床の鏡を撮ったものです。
天井と微かにガラスが映っています。
塩ビの鏡ですからかなり歪みがでます。
この歪みも重要な要素です。
通常の鏡ですとどうしても厚みがでます。
その物質性を作家は嫌ったそうです。
当然、ガラスの大きさや厚さ、高さも慎重に決められたと思います。
しかしながら、それは計算と言ったものではなく作家の思索の過程です。

この作品は、わたしと貴方の間に横たわる問題についての思索です。
とても重要な問題についての。
わたしは鑑賞しながらそう思索しました。
多くの方がこの作品を観て、それぞれの自由な思索をする。
この作品には、それを許容するだけの拡がりと強度があると思います。
1枚のガラスと1枚の鏡(そして数本のテグス)、それだけで成り立っていながら人を深いところまで誘う表現。
面白いと思います。






高野麻紀展

会場
:300日画廊
東京都港区北青山3-5-11 高桑ビル3F307号
(地下鉄表参道A3出口より、青山通りを赤坂に向かって徒歩2分)
URL:http://www1.ttcn.ne.jp/~DG300/

会期:11月28日(火)〜12月9日(土)
12:00〜20:00
(会期中無休)





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