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2004


アメリカのスーパーボールの会場で一度だけ放映されたという、初代Machitoshの伝説のCFがあります。
ジョージ・オーウェルのSF「1984」に想を得た、このCFが放映されたのも1984年です。
監督は「ブレード・ランナー」のリドリー・スコット。
CF出身だけに、一つのドラマと美しい映像を短い時間にスタイリッシュに織り込んでいます。

このCFが今年の
Macworld Conference & Expoで披露されました。
Macintoshの20周年を記念したものですが、その映像には新しい要素がコッソリと付加されています。



CFのオープニングの映像です。
壁の14は14階を示し、半透明のチューブのようなものは空中階廊です。
チューブを良く見ると、人が一列に並んでいます。



チューブの内部です。
囚人服のようなものを着せられた人間の行進です。
どの人間の顔にも精気がなく、性格を奪われたかのような無表情で行進していきます。
行進の行き先は講堂のようです。
壁には監視カメラのモニターが。

すると、突然一人の女性が現れ、チューブの奥から講堂に向かって走ってきます。



ハンマーを手に、講堂に向かって走る陸上競技選手のような女性。
左がオリジナル(1984年)で、右が2004年に公開されたヴァージョンです。
オリジナルは
http://www.uriah.com/apple-qt/1984.htmlからのキャプチャー(スクリーンショット)で、
2004年版はhttp://www.apple.com/hardware/ads/1984/からです。

色合と縦横比が若干違いますが、背景、人物ともまったく同じものです。
違うのは2004年版の女性が付けている、CGで合成されたと思われるiPodだけです。
全編を通しても、違いはココ(女性が付けているiPod)だけです。

iPodが2002年に登場したとき、多くのMacユーザーは冷静でした。
何で今頃AppleがMP3プレーヤーを?
冷ややかな反応で迎えられたiPodですが、この二年で情況はすっかり変わりました。
200万台を突破したというiPod。
一般的なiPodユーザーとって、Appleとは「コンピュータも作っている会社」になりつつあります。
誇張した表現ですが、情況的にはそうなりつつあります。



女性を追う警備員と、講堂に入った女性の映像です。
講堂には大きなスクリーンがあって、眼鏡を二重にかけた男が聴衆に演説しています。
(英語なので何を言っているのか分りませんが、何となくニュアンスでシーンは理解できます。)



オーウェルが1949年に著した「1984」は、未来管理社会を描いた恐怖小説です。
このCFは、パーソナルコンピュータ(Macintosh)がその管理のカウンターになる、というコンセプトで作られています。
ではAppleが反体制、反管理の会社かというと、全然そういうことではなくて、販売戦略なんですね。
当時は高価だったMachitoshが買えるエリート層に向けてのイメージ戦略です。
Appleはユニークで美しいハードとソフトをプロダクトする会社で、わたしも愛用者ですが、イメージには騙されないようにしましょうね。



身体を回転させ、ハンマーにスピードをつけて、スクリーンに向けて投げようとしている女性。
耳には
インナーイヤー型ヘッドフォン、コードは腰のIPodに。

2004年のMacworld Conference & Expoでは新しいハードウェアの発表はありませんでした。
専らiPodとiPod miniの話題に終始した感があります。
去年Windows版のiTunesがリリースされ、WindowsユーザーもiTunes Music Storeで楽曲を購入できるようになりました。
(iPod自体は以前からWindowsをサポートしています。)
これでiTunes Music Storeで楽曲を買い、iPodで聴くというスタイルが(Macユーザという地方区から)全国区になりました。

2004年。
この年は、音楽のリスニングスタイル(及び流通経路)の変革の年になりそうです。
ハード(iPod)とソフト(オーディオフォーマット)と販売経路(iTunes Music Store)に標準(デファクト・スタンダード)が形成されつつあります。
(それを見越してのAppleのMacworld Conference & Expoであり、「1984」のリメイクCFです。)

趨勢としては、近い将来音楽CDの販売をネット楽曲販売が上回ることは確実ですが、このままAppleの独走が続くかどうかは分りません。
あのMicrosoftが今年乗りだしてきますから。
個人的な願望としては、この会社だけにはイニシアティヴを取らせたくないです。
今までの例を見ても最悪になりますから。



勢いのついたハンマーは、弧を描きながらスクリーンに激突します。
その直後のスクリーンが白い光を放つシーンです。

時代は確実にデジタル音楽ファイルの流通に変わりつつありますが、積み残した問題もあります。
デジタル著作権の問題です。
iTunes Music Storeは、いわば音楽会社とユーザーの妥協点です。
これをしっかり考えていかないと、知らないうちに時代は悪い時代へと歩みを進めてしまうことになります。

2004年。
予定どおりに行けば、今年日本でiTunes Music Storeで楽曲の購入が可能になります。
一曲100〜200円で楽曲が購入できれば、わたしは毎月10曲以上は買うと思います。
(その前にiPodも買わなければ。)
わたし自身の冷めた音楽状況も、この年がターニングポイントになるかもしれません。



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