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地方の古い町のメインストリートは寂れる一方ですが、中には例外もあります。
わたしの住んでいる、山梨のとある町。
道路の拡張でこの町は生まれ変わりつつあります。

この町は、旧甲州街道に面した宿場町として江戸時代以来栄えてきました。
メインストリートには各種商店、寺社、医院が軒を連ね、近郷の中心として機能してきました。
ところが、道路の狭さと駐車場難がネックとなって、交差する新興の道路にその地位を奪われてしまいました。
一昨年辺りから、商店街の再興と隣接する市の道路計画が連動するかたちで道路の拡張が始まり、町の様相が徐々に変わってきています。



拡張された道路と建直しがされた商店です。
拡張計画の道路西端からのショットです。
(今行われている工事は電気工事で、道路拡張とは関係ありません。)
この地点から東に向かって約1キロほどが拡張中です。

道路向かい側の建物は葬儀屋さんです。
この葬儀屋さん、郊外にセレモニーホールも経営していて商売繁盛中です。
(この商店街で最も潤っていると陰口を叩かれていますが、ま、それも時代ですね。)
その隣は畳屋さん。



畳屋さんの隣は床屋(理容店)。
駐車場が店舗の前に広く取ってあるので、通りからは引っ込んでいます。
その隣が今回御紹介する結婚式場です。
(結婚式場の右隣は元銭湯だった家。)

多くの商店が拡張で建て直して再スタート(リニューアルオープン)していますが、これは奇跡的なことです。
通常拡張や老朽化で建て直す場合、個人商店の不振と後継者難で廃業するケースが多いからです。
多くの場合、小さなビルを建てて店舗や部屋を賃貸し、商店主は大家として上階に住居を構えるのがほとんど。
この町の商店の場合は後継者に恵まれたことが大きな要因と想像されます。
(金物屋、化粧品店、お菓子屋、酒屋、お茶屋、パン屋、時計屋などの個人商店がリニューアルオープンしています。)

さて、この結婚式場、忽然と今年の春に姿を現しました。
低層階の多いこの町では目立つ高さと建築デザインです。
ランドマーク、といっても良いと思います。
南欧風(イタリアとかスペイン)ですね。
周りのモノトーントラディショナル建築から浮きまくっています。

屋根の上には十字架。
キリスト教の教会が中にあるようです。
といっても神父さんや牧師さんが常駐しているわけではなくて、結婚式のときだけ出張してくる教会でしょうね。
何といっても結婚式場の中の教会ですから。



式場へのアプローチです。
偶然、新郎、新婦が出てきました。
オーソドックスな黒のスーツと白いウェディングドレスですね。
でも何か辺りに華やいだ雰囲気がありません。
リハーサルか撮影の為のセッションでしょうか。

セットのような結婚式場ですが、イナカではこれが流行りです。
フレンチやイタリアンのレストランで、ロマンティックな式を挙げる。
これがイナカのトレンドです。
派手な演出で、大勢の招待客を招く結婚式はもう時代遅れになっています。
仲人も立てず、最小限の親戚、会社関係、友人で挙がる結婚式が主流です。



結婚式場の裏に回ってみたら、墓地がありました。
近くにあるお寺のお墓です。
こうやって見ると、妙な取り合せですね。
(日本人の宗教観が良く出ていると思います。)

葬儀屋も近所にあるし、これで産院でもあれば揺り籠から墓場までです。
今は浮いている結婚式場ですが、何年か経てば適当に古びて町に溶け込むでしょう。
そうやって、町は徐々に生まれ変わります。



再び、メインストリートです。
元銭湯の隣は、元食料品店がセブンイレブン。
上はマンション。
セブンイレブンの前はドコモショップです。
食料品と日用品と通信機器。
この一角だけで、取りあえずの日常生活が送れますね。

多くの町が廃(すた)れたのは、町の外れに郊外が出来てからです。
自動車が移動の主な手段になったとき、町には歩く人の姿が消え、町は廃れ始めました。
道に段差のある歩道を作ったとき、町は廃れ始めました。
道の主役が人から自動車に交代したからです。
今考えれば、あの段差は人をクルマから守る為ではなくて、人がクルマの邪魔にならないように設けられたものです。

歩く、存外重要な行為かもしれません。
散歩(レクレーション)ではなくて、用事で歩くこと。
歩く人がいることで町は成り立っているのではないでしょうか。
肩と肩が触れ合うように人が行き来し、知合いに会えば会釈したり立ち話したりする。

そんな町が残っているのは、意外なことに東京に代表される大都市です。
段差のない道が残っているのは大都市の町々です。
(わたしの東京の居住地である西荻窪のメインストリートには段差がありません。)

山梨のこの町が再興するかどうかは未知数です。
でもわたしは、夕暮れどきに歩く人で混雑する町をもう一度見てみたいと思っています。
そのときは又、iPhotoで報告させていただきます。

次回IPhotoは「街」です。



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