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隣り(山梨編)


山梨のわたしの住まいの南隣は空地で、その隣りも又空地で、その隣りが実質的には隣りです。
その隣りはどういう家かといえば、



こういう家なんですね。
白壁に赤い瓦屋根、ところどころにレンガ。
南欧風の家です。

正面のテントの前垂れの「CAFE' TERRACE」の文字が示す通りレストランです。
イタリアンレストラン。
写っているのはその一部です。
敷地が500坪で、レストラン本体は100坪ぐらいです。

レストランの他は、駐車場を兼ねた庭とその庭にある小さなブティック、それとオーナーの自宅です。
敷地全体が樹木で覆われていて、ちょっとした林のような雰囲気でした。
その辺りの感じは、上の写真でもお分りになっていただけますね。

この写真を撮ったのは三年前の十月。
デジカメを買って、とりあえず慣れるために近所を撮っていた時の一枚です。
紅葉が終わる頃でした。
この時すでにイタリアンレストランは営業を終えていました。

このイタリアンレストランの開業は約三十年前。
オシャレな雰囲気と、地方では珍しいイタリアンレストランということで、ランドマーク的な存在でした。
閉店したのはこの写真を撮った年の春ごろでした。



レストランの全景ですが、これは今年の夏に撮った写真。
荒れてますね、メチャクチャ荒れてます。
右側の屋根が斜めになった部分が上の写真です。
窓も割られていて雰囲気が全然違いますね。

休業後、所有者が変わってもそのままに放っておかれたレストランでしたが、突然今年の夏に手が入りました。
大型の工事車両が庭やラストラン周りの樹木を根こそぎ伐採してしまいました。
丸裸になったイタリアンレストランといった感じです。
以前を知るものにとっては哀れとしかいいようがありません。
この状態が続いたのが二ヶ月余り。



今度も突然(部外者であるわたしにとっては突然ですが、当事者には予定通りでしょうね)、レストラン本体の取り壊しです。
左が取り壊し前、右は取り壊し後。
残っているキューブ型の家はレストランのオーナーの自宅です。
休業と同時に無人となった家です。

土の部分は敷地だったところです。
庭が広かったのが想像できますね。
この庭が樹木で覆われていたのです。
オーナーの家と一本の木が残された理由は、部外者のわたしには当然分かりません。



レストラン跡地です。
何か、荒涼としていますね。
家の前の裸の木が寂しげです。
撮影地点の横には「売地」の看板も立っていました。

わたしの住まいは、写真の左側の電柱の下の青い屋根の家の前です。
ですから、レストランの裏側が窓から良く見えました。
丁度これを書いているデスクの前の窓から、南欧風の建物が良く見えました。

一番最初の紅葉の写真は記録として撮ったものではありません。
たまたま眼に入った風景としての被写体です。
結果的には記録となってしまいました。

写真や絵で写し取ったものが、その意図に反して記録となってしまう時があります。
話が飛躍しますが、例えば、ニューヨークの世界貿易センターのツインタワービル。
事件前のツインタワービルを写したありふれた絵葉書も、今ではそこに記録を含んでいます。
かつてあったものの記録、です。
写し取った現実の両義性、つまりわたしの現実と位相の違う現実。
その両義が、現実なんでしょうね。


仕事の行き帰りにレストランの前を通ります。
以前の樹木に覆われたレストランと、今の荒涼としたレストラン跡地。
もちろん以前の風景の方がわたしの好みですが、それは個人的な感想。
個人的な感想とは関係ないところで風景は変わっていきます。
いってみればそれの方が現実なんでしょうが、置き去りにされたわたしの現実というものもありますね。
そのちっぽけな現実の意味するものは何でしょうか。
それを、わたしは今考えたいと思っています。




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