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「引き算」


東京有楽町の駅前に東京国際フォーラムがあります。
恐竜の骨を思わせる、レンズ型のガラス棟が有名です。
そのフォーラムの中庭を東京駅方面に通り抜けると、広い通りに出ます。
そこを左に曲がって直進すれば皇居の二重橋ですが、曲がって最初の交差点が東京国際フォーラム西です。

この交差点の角で昨年来から大きな建設工事が行われていました。
工事範囲は街のまるまるワンブロックで、東京国際フォーラム西の次の交差点まで延びていました。
その交差点は丸の内仲通りに面しているので、丸の内メインストリートのビル建設ということになります。
工事中は大きなシートやフェンスで被われていましたので、中の様子は見えませんでした。
ただ何となく普通の工事とは異なるような雰囲気があって、気になっていました。



まだ工事は終わっていませんが、全容を現した建物です。
ワンブロックの敷地に二つのビルが建っていて、手前が復元された三菱一号館で、奥が丸の内パークビルです。
三菱一号館は丸の内に初めて誕生したオフィスビルで、1894年に建築されました。
設計は鹿鳴館を手がけた英国人で、当時を忠実に復元したのが上の三菱一号館です。

丸の内パークビルは現代的な高層ビルで、階数は地上34階です。
低層階が商業施設で上はオフィスという、丸の内の再開発のセオリーに則ったビルです。
竣工は先の連休のようですが、ビル自体のオープンは2009年の秋になっています。
(写真の撮影は2009年の4月中旬です。)



この角度から見ると、丸の内パークビルの威容が実感できます。
屋上にはまだクレーンが載っていて、工事中であることを示しています。
上の画面には写っていませんが、三菱一号館の左に、丸の内パークビルの低層棟もあります。
三菱一号館と丸の内パークビルの間には小さな庭園も作られているようですが、こちらからはまったく見えません。

まだ工事中ですが、外観に関してはほぼ完成状態です。
全容を見た正直な感想ですが、復元された三菱一号館と丸の内パークビルの関係がうまく把握できません。
復元された古いビルと現代建築が、同じ敷地に無関係に並んでいるようにしか見えないのです。
設計意図に特に関連性が無ければ、それは正解なのですが、今一つ腑に落ちない感が残ります。
それと、復元された三菱一号館が妙に新しいので、思ったほど新旧の対比がありません。

三菱一号館は三菱一号館美術館として、2010年4月に美術館としてオープンする予定です。
館内にはショップやカフェも併設されて、丸の内の文化・芸術の中核となる美術館を目指しているそうです。
開館記念展は「モネとモダン・パリ展」で、あまりにもストレートというか、面白みには欠ける企画です。
保守的でオーソドックスが趣味の丸の内界隈ですから、これも正解といえば、正解です。

地域の再開発にはいろいろな手法があると思いますが、基本的には足し算です。
商業施設やオフィスゾーンを中心に、公共的設備や文化、芸術などの施設を足していくやり方です。
必要性と集客性を巧く交えながら、地域を活性させるのが再開発のキモだと思います。

三菱一号館と丸の内パークビルを見ていると、(外観だけの印象ですが)空間が圧縮されたような窮屈さを感じます。
つまり、足し算が過ぎてユトリがないように思えるのです。
再開発は土地の価値の増大が目的ですから、足し算になるのは納得できます。
しかし、そこに引き算を加えると、思わぬ価値が出現する場合もあります。
「何もない」ことから浮かび上がる価値です。

元々そこにあったモノを引いていって、何もなくなったときに浮上する何か。
それは、土地の記憶のようなもので、その固有性こそが土地の最大の価値かもしれません。
復元といった足し算ではなく、引き算の魔術。
現代美術の問答じみてしまいましたが、わたしは、ついそんな魔術を期待してしまいます。