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探偵物語(44)


探偵は調査するのが仕事ですが、調査対象の多くは人です。
人を調べる、それが探偵の主な業務といっていいと思います。
人の調査は千差万別で、依頼者の知りたいことによって異なります。
経歴、経済状態、生活状況、交友関係、政治思想傾向、趣味性癖などなど。

大概は、一つか二つの事柄に調査が限定されていています。
不倫であれば交友関係で、信用調査なら経歴と経済状態に絞られます。
調査の報告にはフォーマット(形式)があって、それをカバーすれば仕事は終りです。
ほとんどの依頼者はそれで満足しますし、それ以外はオプションとして別料金で調べます。

しかし、報告書を書いているときに、何となく納得できない場合もあります。
上手く説明できないのですが、調査対象と報告の間にギャップのようなものがあるときです。
フォーマットでは表現できない、調査対象の個性というか人間性のようなものです。
特に、人物全般についての調査を依頼されたケースでは、隔靴掻痒の感を持ってしまいます。



人には特有の匂いや雰囲気のようなものがあります。
仕草や口調、表情などにそれは表れ、強い印象を残すことがあります。
それは経歴や社会性よりも、その人を雄弁に語っている気がするのですが、報告書には載りません。
せいぜいが、口頭で伝えられるだけです。
それを文字にするのは、探偵の仕事ではなく、文学者の仕事なのかもしれませんね。

わたしはプライベートで探し物をしています。
日常の街や郊外の光景の中に、その探し物があると思っています。
それで、光景を切り取るためにカメラを持ち歩いています。

切り取った光景を眺めていると、報告のフォーマットのことを思い出しました。
わたしは知らず知らずのうちに、形式に沿って光景を切り取っています。
それはそれで大切なことで、間違っているとは思いません。
形式はコミュニケーションの基本ですし、相手が自分であっても例外ではありません。



人間とは違うかもしれませんが、風景にも特有の匂いや雰囲気があります。
言葉を変えると、そこにある空間、空気の層みたいなものです。
漠然とした何かです。
そこに、もしかしたら探し物の一部があるかもしれない。
ふと、わたしは気付きました。

形式の成り立たせているのは、フォーカス(焦点)です。
どこに焦点を当てるか。
人の調査でも風景でも、それは同じです。
そしてピント(焦点距離)が合っていれば、調査も切り取りも上手くいきます。
フォーカスの合わせ方に、形式があります。

では、一応形式を外して切り取ってみたらどうなるか。
この形式とは、わたしが知らず知らずのうちに採用した形式であって、広い世間にはもっと沢山の形式があります。
わたしが知らないだけです。
ともあれ、今までとはやり方を変えて、漠然とした何かにフォーカスしてみました。
それが、今回ご覧いただいている画像です。



今までとさほど変わらない?
そうかもしれません。
身に付いた形式は、一朝一夕には変えられませんから。
でもわたし自身は、こういうやり方も有りかなと感じています。

探し物が直ぐ目の前にあって、それに気が付かない。
よくあることです。
そのようなときは、視点を変える、つまりフォーカスの方法を変換するのも手です。
万能の方式や形式などはなく、あるのは、わたしの目だけですから。