iPhoto



探偵物語(41)


前回の続き

心持ち興奮したわたしは、「ハウルの城」に目一杯近づいて、シャッターを切りました。



この古びた施設は、どのような素材できるているのでしょうか。
コンクリートのようですが、貼り付けてあるモノは何でしょうか。
屋上の給水塔のようなものと、錆びたパイプが二本。
所々に雑草が生え、天辺にも植物が。

生きているのか、死んでいるのか。
隙を見せると、突然動き出しそうな気配もします。
油断はなりません。
でも、雑草と植物は、何となくユーモラスですね。
それが、形と相まって、ハウルの城を連想させたに違いありません。

ハウルの城に気を取られていたわたしは、視線を横に向けました。
そこにも、怪しげな施設がありました。


何かのタンクですが、上部の鉄骨はどのような用途があるのでしょうか。
不審な者がタンクを乗り越えると、高圧電流が瞬時に流れて、黒焦げにしてしまうのでしょうか。
それは考え過ぎで、単にタンクの構造を支える仕組みなのでしょうか。

しかし、怪しい。
怪しすぎる。
なぜなら、付近には人の気配がまったくなく、施設が稼働している様子もない。
今日は平日で、工場が休みの日ではない。
この古ぼけた感じはカモフラージュで、きっと深夜になると動き出し、怪人の高笑いと共に、毒薬を大量製造しているに間違いありません。

明智小五郎と小林少年、呑気に温泉につかっている場合ではありません。
愛を育むのは結構ですが、人類の危機が迫っているかもしれないのです!
非力なわたしは潜入する勇気もなく、他に頼れる人もいない以上、調査に専念するしかありません。
敷地の全容を掴むのが、目下の任務と心で決めました。

ハウルの城を過ぎると、敷地の角に出て、そこを敷地沿いに右に曲がりました。
敷地は長方形の形をしていて、まるまる一区画を占めていることが分かりました。
長方形の長い辺に、ハウルの城はあったのです。



しばらく歩くと、次の建物です。
かなり立派な建物ですが、最初に見た見張り搭の建物とは雰囲気が違います。
奥の院といった感じで、世界征服を企む怪人の住まい兼作戦本部なのでしょうか。


もし敷地の中で、作業服やスーツを着た人が出入りしていたのなら、わたしは怪しまなかったでしょう。
工場や研究所として、見過ごしていたと思います。
不気味に静まり返った内部と、その様子を隠しているフェンス。
わたしの探偵としての勘が、通りすぎることを許さなかったのです。

建物を過ぎると、裏門らしき体裁の場所に出ました。



背景の電線の不吉な鳥に目が行っていると、そこには、初めての標識が・・・・。
高圧電流、猛毒ガスまでは、推理が当たっていたのですが、市の下水処理場とは。
そうならそうと、何処かにその旨を伝えるサインがあってしかるべきです。
危うく小林少年に連絡して、恥をかくところでした。
唯でさえ、ヘボな探偵と言われているのですから、下水処理場を世界征服基地とか言った日には・・・・。

それでも、人類の安全が確認されて良かった。
わたしは、ホッと胸をなで下ろしました。
(ま、そういう演技をして、恥ずかしさを凌いだのでした。)

標識からしばらくすると敷地の角で、右に曲がると最初の場所に戻ります。
こちら側が表で、正門もありました。
ちゃんと看板も出ていました。
が、やはり人っ子一人いない。
構内にクルマが一台だけ、駐車しています。

つまりは、操業を停止した下水処理場ですね。
敷地、施設の跡地利用が決まっていないので、監視の人間だけが見回りに来ているだけ。
そういうことだと、思います。

正門の側はぐるりと小さな用水路が巡らされています。
ここまでご覧いただいた画像は、比較的暗いものが主でした。
少し、明かりを灯してみましょう。



ツツジ、じゃなくて松葉菊ですね。
今、町や村はツツジで溢れています。
色がよく似ていますが、こちらは菊ですから、クッキリとした花の形をしています。
種が舞ったのか、誰かが植えたのか。
用水路に向かうように、松葉菊が咲き誇っています。

さて、最後に表側から見張り搭の建物の全景をご覧いただきます。
わたしの妄想を誘った建物です。
やはり、姿の良い建物だと思います。



何も使われていないとしたら、勿体ないですね。
わたしの探偵事務所にしたいところですが、(残念ながら)維持費さえ捻出できないでしょうねぇ。

ここまでの探索に要した時間は、一時間強。
いつもはマジメに、光景の中に探し物をするのですが、偶には妄想に任せるときがあります。
わたし流のストレス解消です。
まだ、時間の余裕があるようです。
もう少し先まで、行ってみましょうか。