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探偵物語(20)


わたしは、今歩いています。
確たる目的もなく、ブラブラと歩いています。
道を楽しむように、歩いています。



半日しか仕事をしない探偵は、道楽と呼ばれますが、確かに道楽です。
道を楽しんでいるのですから。
正確にいえば、道を歩く時間を楽しんでいます。

道楽には達人がいて、その名を松尾芭蕉といいます。
「奥の細道」の松尾芭蕉ですね。
この人も、探偵といえば探偵です。
何を探っていたかといえば、人生でしょうね。
人生という、時間を探っていたと思います。

同じ俳人で、
与謝蕪村という人がいます。
この人の有名な句に、「
春の海 ひねもすのたり のたりかな」があります。
わたしの最も好きな俳句ですが、学生時代、この句を小林一茶の作と思っていました。
とあるバーで、一茶のこの句が好きだと吹聴したら、年配の客から訂正が入って赤面した記憶があります。
若気の至りというより、単なるバカで、これは死ぬまで直らないでしょうね。



春の海 ひねもすのたり のたりかな」。
改めて、これは名句ですね。
時の流れを詠んだ、名句だと思います。
この時間感覚には、脱帽します。

道を楽しむ究極は、旅を職業とすることです。
道を楽しみながら、果てる。
全てを棄てて、それでも道を楽しみながら、果てる。
達人、芭蕉です。

それに比べれば、わたしの道楽はママゴトですが、それでも良いと思っています。
わたしは凡人で、凡庸な探偵ですが、わたしなりに道を楽しんでいますから。



上の画像は駐車場です。
水はけの悪い駐車場で、水溜りが盛大にできています。
道楽には駐車場も必要で、そこで少し考えます。
道を歩いているときも考えているのですが、アチコチに気を取られているので、考えがまとまりません。
考えをまとめるには、駐車場です。

立ち止まると、つい、「オレは何をしているのだろか」という懐疑的な考えが頭に浮かびます。
初心者の陥りやすい疑問です。
何をしているも何も、ただ道を歩いているだけですから、答なんか見つかりません。
考えるとしたら、「オレはどういう時間を過ごしているのだろうか」でしょね。



いつになく、哲学的な頭になっているわたしですが、初心者が道に迷っているだけです。
そういう時は、何も考えずに歩くことですね。
歩いていれば、きっと何かを見つけることができる筈です。
そこで、考えれば良いことですから。

春の海 ひねもすのたり のたりかな」。
この句は、何をいいたいのでしょうか。
わたしなりの解釈では、時間の繰り返しを語っていると思います。
時間は過去から現在、未来へと直線的に流れるものではなく、繰り返しているものだと。

春の海は、ノンビリしています。
波は、のたのたと押し寄せ、のたのたの引いていきます。
その繰り返しです。
それが自然の摂理で、宇宙の法則ではないかと。



わたしは、今歩いています。
確たる目的もなく、ブラブラと歩いています。
(時々道に迷いながら)道を楽しむように、歩いています。