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 探偵物語(14)


探偵にとって一番必要なのは、根気です。
とにかく諦めずに、微かな手掛かりを頼りに調査する。
それに尽きます。
しかし、根気だけでは優秀な探偵になれません。
複雑な関係で構成された人間社会の、どの線が最も重要か。
それを見極める力が、探偵の優劣を決めます。



蜘蛛の糸です。
今朝、見つけました。
この糸の下方に、蜘蛛の巣があります。

もし虫がこの糸を発見したなら、むざむざと蜘蛛の餌食にはならないでしょう。
でも、この糸は光線の加減では、まったく見えません。
罠に墜ちた虫にとって、見えなかったのは不幸なのか。
それとも、運命なのでしょうか。
難しい、ところです。



電線、あるいは電話線の類いです。
街で、切り取った光景です。
重要なのは、背後の高級ホテルではなく、手前の線です。

この線がエネルギーを運び、人と人を結んで、情報を伝達します。
もしこの線が切断されたら、わたしと貴方の関係は変わってしまい、生活も成り立たなくなってしまうでしょう。
それは不幸なことかもしれませんが、最初に戻るだけかもしれません。
ただ、それだけのことかもしれません。



このヒモの上には、電灯があります。
とある老人施設の一室の、光景です。
元々の電灯のヒモが、それとは関係ないヒモと中央で結ばれています。
誰が結んだのでしょうか。

想像するに、施設の職員が住人の便宜を計って結んだのでしょう。
腰が曲がり、電灯のヒモになかなか手が届かないのを見かねて、結んだと思います。
中央の飾りのようなものは、ヒモの目印かもしれません。

人と人の関係は、思いも寄らぬ出会いから生じる場合があります。
その結び目は、時間とともに忘れていきます。
探偵業にとっては、その結び目こそが調査の肝要です。
それを丁寧に解きほぐすことで、ゴールが見えてきます。

最近、それは自分自身の人生にも当てはまるように思えてきました。
歳の、所為でしょうか。



わたしの居室のベランダに絡まった、ツルです。
先端が、楽しそうにクルッとカーブしています。
まるで、音楽に合わせて身体を軽やかにターンさせているようです。

こういうラインを発見するのも、探偵の務めです。
探偵はサービス業ですから、依頼者に応えなければいけません。
もし調査結果が期待に反するようなものであっても、どこかに、このようなラインを潜ませておくべきです。
それが、優秀な探偵の証です。