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 探偵物語(11)


わたしは、その日も半日で仕事を終えました。
半日しか仕事をできない探偵は、後の半日を夢の中で過ごすつもりでした。
ところが、その日はとても疲れていました。
やっとのことで自室に戻ると、ベッドで横になりました。
本当の、夢の中に沈んでいきました。

時計を見ると、一時間半ほど経っていました。
身体はまだに怠く、外に出る気がしません。
冷蔵庫からミネラルウォーターを出して、ボトルに口をつけました。
メールをチェックするつもりで、コンピュータの前に座り、電源を入れました。



とりたてて興味をひくメールもなく、毎日飽きもせず来るスパムを削除して、メールソフトを終了させました。
身体の底に残っている怠さを引きずりながら、何気なく、画像の溜まったフォルダをクリックしました。
わたしが夢の中で切り取った光景を収めているフォルダです。
ボンヤリ画像をブラウズしていると、倉庫や物置の光景が何枚もあります。

わたしは倉庫や物置が好きなわけではありません。
倉庫(物置)フェチなどとは、今まで一度も思ったことがありません。
でも、現実に倉庫の画像が何枚も何枚もあります。
これは、一体どうしたことなのでしょうか。



わたしの脳内探偵は、調査を開始しました。
なぜ倉庫や物置を(ご主人は)切り取るのか。

その昔の日活映画には、横浜辺りの倉庫の銃撃シーンが多数ありました。
港には異国情緒があって、荒唐無稽な話の展開には好都合でした。
港や倉庫は生活臭を排除できるからです。
その後遺症でしょうか。

脳内探偵は、すぐに否定的な結論に達しました。
(ご主人の)好きだった映画の銃撃シーンは、アメリカの西部でしたから、該当しません。



これは又、異な画像です。
手入れの行き届いた植木の間に、安直な物置。
一般的には、物置は無いものとして植木を観賞します。
しかし、(ご主人は)物置にフォーカスしています。
シュールが好きなのでしょうか。

脳内探偵は、コンピュータの中の画像をスキャンして、結論を出しました。
シュールな画像など、一枚もありません。
どうでも良いような日常の風景ばかり。
これも、該当しません。



銀色のテント地で覆われた倉庫です。
脳内探偵は、ピンと来ました。

そうか、(ご主人は)チープな建築資材が好みなんだ。
核心に一歩近づいた感触で、脳内探偵はなおも調査を続けました。



これは、古い倉庫ですね。
倉庫に重なるように電話ボックスが立っています。
緑色の電話が、とっても存在感がありますね。

脳内探偵は、歩みを止めてしまいました。
調査など、バカバカしくなってしまいました。
(ご主人は)気侭に光景を切り取っているだけなのです。
その意味なんか、まったく無いのです。

他人の探し物に飽き飽きして、自分の探し物をしている(ご主人)。
でも、もともとがヘボな探偵ですから、道に迷っているに違いありません。
夢の中の道ですから、迷って当然ですね。