iPhoto



 探偵物語(10)


反対側(東側)の窓からはダイナマイト警察署の建物が見えます。
建物の中央には、小さな搭が立っています。



水滴は少なくなりましたが、ボンヤリ見ていたら、水滴が涙に見えてきました。
涙という字は、さんずいに戻るです。
何かを振り返ると、涙が出る。
なるほど、なんとなく納得できる漢字ですね。


空は見る見るうちに明るくなって、水滴を上空に吸い上げていきます。
雲の一点から陽射しが顔を出し、地上に色彩が溢れだしました。
電線も光を浴びて、元の姿を取り戻しつつあります。



水滴に眼の焦点を合わせて、じ〜っと眺めていると、ガラスの向こうは絵画になりました。
光が描く絵画です。
昼食後の一時、コーヒーを飲みながらわたしはタバコに火を点けます。

日々の仕事に追われていると、風景の色彩を忘れてしまいます。
風景は形と色彩で成り立っています。
形も色彩も、止まることがなく変わっていきます。
朝の、あんなに冷たくよそよそしかった窓の色彩が、優しげに輝いています。



大きな水滴を残して、窓は朧げな形と色彩だけになりました。
わたしはユックリとデスクに戻ります。
さぁ、これから仕事です。
憂鬱な月曜日ともオサラバです。

光という字を見てみれば、両手を上げた人の形です。
歓喜に包まれた、人の形です。
なるほど、これも納得できる漢字ですね。

雨の日の、探偵の一日でした。