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 探偵物語(6)


探偵という職業は、窓に縁があります。
調査対象を観察する場合、窓からの視線が比較的安全です。
カーテンやブラインドの隙間から覗けば、気が付かれません。
クルマのウィンドウ越しに張り込みをすることも、多々あります。

一方で、調査対象が窓の向こうという場合もあります。
その時は、こちらも窓から双眼鏡で観察します。
ヒチコックの「裏窓」みたいにね。

そうそう、学生時代にはこんなこともありました。
友人が新宿の柏木(中野坂上の近く)の木造アパートに住んでいました。
遊びに行くと、夜中に隣りのアパートから叫び声が聞えます。
窓から身を乗り出して見下ろすと、隣りの一階の窓に裸の女が見えます。
どうやら痴話げんかの様で、住民に水商売関係者の多いこの辺では、良くあることのようです。
ビックリすると同時に、若かったわたし達は何やら興奮してなかなか寝つけませんでした。

仕事とは関係なく、わたしは時々窓のある光景を切り取ります。
もちろん、街にレンズを向ければ窓を写さない方が難しいかもしれません。
街は、窓だらけですから。
今日は、そういう窓とは違う窓の光景ご覧いただきます。




ピンクのカーテンとアイボリーのロールカーテンのある、ガラス窓です。
ロールカーテンの織り目から、外の風景が透けて見えます。
映画館のスクリーンにボンヤリと映し出された風景、に見えないこともありません。
ピンクのカーテンは、スクリーンを覆う緞帳かもしれません。

季節は冬だったでしょうか。
午前中の軟らかな光が、カーテンを透して身体に届きました。
しばらく眺めていましたが、風景は止まったままで、映画のようなドラマは展開されませんでした。



その窓に、思いっ切り近づいてシャッターを切りました。
中央のラインはサッシの窓枠です。
それでも、良く見えれば風景の輪郭だけは何とか識別できます。

探偵は窓から調査対象を観察しますが、普通の人も日常的に窓から外を見ます。
外(下界)の様子を見るために。
お天気はどうか、何か変わったことはないかと眺めます。
あるいは、ボンヤリと外を眺める時もあるでしょう。
そういう気分は、誰にでも訪れると思います。

喫茶店(カフェ)の意匠の主流がガラス張りになったのは、いつ頃だったでしょうか。
それまでの喫茶店は閉鎖的な雰囲気で、室内も薄暗い感じでした。
今は外を眺め、外からは中を眺められる、そういう関係になっています。
窓越しに、風景を交換しているのかもしれません。



浴室の壁に映った、窓です。
温泉に行くと、大概風呂場はガラス張りです。
上のような不透明なガラスではなくて、透明で大きなガラスです。
外の景色を見ながら、湯に浸かる。
極楽気分、ですね。
日本人が最も寛げるシチュエーション、です。

窓といえば、テレビも窓の一種です。
外(下界)がどうなっているか、この窓で眺めます。
行ったこともない外国も、月や火星の様子も、この窓から眺められます。

今は、インターネット(WWW)ですね。
Webブラウザを立ち上げて、外の様子を確認します。
ブラウザの内側がウィンドウと呼ばれているのは、窓である証拠です。
(絶大なシェアを誇るOSの名前も、Windowsです。)



浴室の窓から見える、風景です。
ブルーは隣家の屋根の色です。
She Came in Through the Bathroom Window」。
上はビートルズの名作「ABBEY ROAD」の中の一曲ですが、入浴中に窓から彼女が入ってきたらビックリするでしょうね。


探偵は窓から外の様子をジッと見ています。
場合によっては、何時間も見ています。
トイレもジッと我慢して、見続けます。
しかし、探偵は何も見ていません。
それは仕事だから致し方ないことですが、調査対象以外は何も見ていないのです。
それに耐えられないと、探偵業は廃業です。

だからわたしは、オフになると、普段は見ていない窓の光景を切り取りたくなるのです。