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 探偵物語(1)


わたしは、探し物をしているのかもしれません。


わたしはヘボな探偵です。
いえ、自称ではなくて周りがそういうのです。
確かに探し物を見つけるのはヘタですが、ヘボはあんまりです。
仕事が不得手な探偵、ぐらいにして欲しいものです。
そのくらいの自覚はありますから。



わたしがこの職業に就いたころ、駆け出しとしては優秀な探偵でした。
勘が良いというか、職業的な適性に合っていたんでしょうね。
それで順調にキャリアを上げて、十年前ほどに独立しました。
その当時は、仕事に自信があったのです。

おかしくなったのは、事務所を構えて数年したあたりからです。
調査で駆けずり回り、一休みするために喫茶店に入ります。
いつものパターンです。
その後が、いつもと変わってしまいました。

店を出て街を歩きだすと、わたしは景色に見とれてしまいます。
別段変わった景色でも何でもないのですが、つい見とれてしまう。
どうしてなのか自分でも分かりませんが、景色が新鮮で、ウキウキしてしまうのです。
あっ、ウキウキというのは言い過ぎかもしれません。
気分が、少し高揚するのです。



気分が高揚するのは悪いことではないと思いますが、困るのは仕事を忘れてしまうことです。
何を探しに(調査に)来たか、忘れてしまうのです。
仕事を忘れてフラフラ歩いている人はヘンな人ですが、それがわたしです。
ハッと気が付いたときには、どうしてここにいるのか思い出せません。

手帳を見れば依頼人が分かります。
依頼人に電話すれば、わたしがなぜこの街に調査に来ているか分かるでしょう。
でも、そんなことは出来ません。
電話した途端に、調査を打ち切られるのが目に見えているからです。

仕方なしに事務所に帰って書類を調べて、喫茶店に入る前までの探偵に戻ります。
こんなことが続けば、仕事の能率は極端に落ちます。
かといって、外に出ないわけにはいきません。
わたしは、探し回るのが仕事の探偵ですから。



探しものは何ですか

井上陽水の「夢の中」の出だしです。
ある時、仕事が減った探偵事務所のラジオから流れてきました。
歌は続きます。

見つけにくいものですか
カバンの中もつくえの中も
探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか
それより僕と踊りませんか
夢の中へ 夢の中へ
行ってみたいと思いませんか

わたしは、下り坂の探偵が嘲笑されたような気分になりました。
ラジオのスイッチを切ろうと、手を伸ばしました。
その時、突然思ったのです。
夢の中に行くのも、悪くはないと。



上の画像、わたしの事務所ではありません。
事務所は雑居ビルの片隅の小さな部屋です。
とある町の景色を切り取ったものです。
ええ、仕事で出かけて、仕事を忘れて撮ったものです。
好きな景色の一つです。
こういうことをしているから、下り坂なのです。

話を戻しますね。
「夢の中」の二番には、こういう歌詞もあります。

探すのをやめた時
見つかる事も良くある話で
踊りましょう 夢の中へ

意味深な歌詞ですね。
探すのをやめる前の探していたものと、やめた後で見つけたもの。
これは同じでしょうか。
多分、違いますね。

わたしは考えました。
わたしは依頼されて、依頼されたものを探している。
それはなかなか見つからない。
わたしは、きっと探すことに飽きたのです。
なぜなら、依頼人の本当の目的は探しているものではなくて、何を探せばいいのかという問の答だからです。
そんなことは、分かりません。
そんなことは、本人しか知らないことなのですから。



そんなことより、わたしはわたしの探しているもの見つけたいと思いました。
そうです、わたしは何を探しているのか。
それを見つけたいのです。


探偵は因果な商売です。
人の探しものばかりしていて、自分の探しものを忘れてしまう。
こんなことじゃ、いけませんね。

わたしが仕事を忘れてしまうのは、一休みした後です。
そこで、わたしは休憩前に集中して仕事をすることにしました。
半日仕事になってしまいますが、何とか食べていけそうです。
ヘボといわれても、気にしません。
一休みしたら、夢の中に行けるのです。
踊りながら、景色の中に、わたしの探しているものを見つけるのです。