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 真珠のビル



わたしは建物を撮影するのが、好きです。
何故だか分かりません。
何故だろうかと、深く考えたこともありません。
もし深く考えたなら、わたしはわたし自身を深く理解するかもしれません。

十年ほど前は、話題になる新しい建物があれば良く見に行きました。
今はそれほどでもありません。
フットワークが重くなったのと、そちら方面への興味が薄くなったからです。
興味は建物全般に拡がり、新しい建物はその一部なってしまいました。

真珠のビルは新しい建物で、とても目を引きます。
久しぶりに、新奇な建物を見た感じです。
この新奇という形容詞のつく事物も、(以前ほどではないのですが)わたしは好きです。
新奇と軽佻浮薄は親戚のようなもので、ともすれば、わたしは軽佻浮薄の部類に見られます。
残念ながら心当たりもあるので、反論は今のところ差し控えています。



序文が終わってここから本文ですが、これは真珠のビルではありません。
真珠のビルが真打ちだとしたら、これは前座です。
新奇なわたしは、この程度では驚きません。
かる〜く、流します。

このビルは建っているのは、銀座並木通りの一丁目角です。
並木通りの入口ですね。
黒川紀章氏の設計と聞きましたが、未確認です。
金属製のケージというか、温室というか、そんな感じの外観です。
近くで見ると目立たないのですが、遠くでこのビルを見ると、かなり新奇です。
頂上付近のアールが、古くて目新しい印象を与えます。

並木通りは、メインストリートの銀座通りと平行している小道です。
五丁目から八丁目までは、ブランドショップ街として有名です。
海外ブランドが軒を並べていますが、この辺りはバーとクラブの密集地ですから、それと多少関係があるかもしれません。
その筋の女性への、贈り物ですね。

一丁目から四丁目までは大人しい感じのショップが多く、同じ並木通りでも様相が異なっています。
又一丁目界隈には稲荷神社や古い飲食店も残っていて、徃(いにしえ)の銀座の雰囲気が残っています。
名画座で有名だった「並木座」も二丁目にありました。


真珠のビル、です。
曇天の撮影で、ビルの色彩が出ていませんが、微妙な色合いの美しいピンクです。
なぜこれが真珠のビルかといえば、
MIKIMOTOのビルだからです。
MIKIMOTOは真珠の御木本で、あの「真珠王」御木本幸吉が創業した会社です。

場所は二丁目の角で、銀座プランタンの斜向かいです。
ビルの名前は「MIKIMOTO Ginza 2」。
設計は「せんだいメディアテーク」の伊東豊雄氏。
日本を代表する建築家です。

このビルを見て真珠を連想する人はいないと思いますが、MIKIMOTOのWebサイトには以下のように紹介されています。

真珠を育む貝から生まれる泡や、舞い落ちる花びらをイメージした大小さまざまな形の「窓」が神秘的。

なるほどそういわれて見れば、泡が下から上に上がっているようにも見えます。
花びらの形容よりは、ロマンチックで想像力をかき立てられます。
夜間に見たら、窓の灯が海中に上る泡の様で、とてもキレイでしょうね。

真珠のビルは商業ビルです。
ブランドが占有する商業ビルは、それ自体が広告塔になります。
よって、意匠には凝ります。
様々な新奇を発信しますが、多くは時代の徒花として消えていきます。
残ったものは、時代を象徴する歴史的建物の栄誉を授けられます。

真珠のビルは、どうでしょうか。
筋金入りの新奇から数歩降りたわたしには、分かりません。
久々に、「ハッとした」意匠には違いないのですが。