iの研究

第七十九回 <歌謡>の研究
「終活」 昭和の歌謡⑥


年明けの1月、卒業した甲府の中学のクラス会が開かれます。
その案内のメールを幹事からいただいたのですが、文面を読むと、故人となった男性が6名とのこと。
女性は全員健在で、いかに男性にかかるストレスが強いかを考えさせられました。
ともあれ、わたしたちの世代も終活の時期に入ったことは間違いありません。
そこで身辺整理と思ったのですが、面倒なことはボチボチということにして、考えが一気に葬式にとびました。
遺影は既にパソコンのカメラで自撮り済みです。
仏教の場合、葬式のメインはお経ですが、昨今ではBGMで楽曲を流すのも可です。
しかしどの歌、曲を流すか。
中学生のころから小遣いのほとんどをレコードに費やしてきたわたしにとって、これは大きな問題です。
郷土の異才、深沢七郎のようにプレスリー、ストーンズ、ビートルズも良いが、ちょっと能がない。
あれこれ頭を廻らしていると、頭上の電球が灯りました。
高田恭子『みんな夢の中』。
敬愛する浜口庫之助の作詞、作曲で、昭和44年のヒット曲です。


『みんな夢の中』は失恋の歌で、楽しかった時、辛かった時を夢の出来事として回想しています。
数多(あまた)ある失恋の歌の中でも、歌詞、曲、歌唱が揃った名曲と断言できます。
ユッタリとしたメロディーラインがまるで夢の中にいるようで、愛聴した憶えがあります。
この曲を葬式のBGMに選んだ理由は歌詞の一番の最後のフレーズです。

喜びも悲しみもみんな夢の中。

何とはなしに、人生の最後に相応しい詞(ことば)だと思いました。
これまで、とりたてて語るような喜びも悲しみもなかった平凡な人生でしたが、ジーンときました。
人生を夢の一つに喩えて、この曲に送られながら、永遠の眠りに就く。
ちょっと素敵だな、と思いました。
そして、それが目下のわたしの夢です。

みんな夢の中