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iの研究



第四十六回 <秘密>の研究



今回のカットの画像は縦横比がワイドになっています。
通常は150(W)×113(H)ピクセルを基準にしてます。
上の画像は200(W)×104(H)ピクセル。
ページのイメージが少し変わりますね。

このサイズは今回だけです。
テストケースです。
何のテストをしているかというと、それは秘密です。
そのうち明らかになりますが、今は秘密です。

上の画像の女性は知らない方ですが、バルコニーの手摺りにもたれ掛かり通りを眺めています。
場所は竹橋の国立近代美術館。
ぼんやり外を眺めながら、何を考えているのでしょうか。
それは、わたしのあずかり知らないことでしょうね。
人にはそれぞれいろんな思いがあり、心の中の模様はその人しか分からないものです。

仮にこの女性が秘密を持っていて、それについてぼんやりと考えているという設定にしてみましょう。
何となくそう見えますね。
ま、実際は夕食の献立をあれこれ考えているのかもしれません。
秘密という言葉はどことなくミステリアスです。
美術館というロケーション自体もどこか謎めいていますから、献立よりはマッチしているのではないでしょうか。
(偶然写真に写った方に失礼なことを言っています。万が一ご覧になっていましたら、お許し下さい。)

秘密、それは誰でも持っています。
貴方も持っていますし、もちろんわたしも持っています。
秘密の種類もいろいろあります。
辛い秘密もあれば、楽しい秘密もありますし、哀しい秘密だってあります。
秘密は、人生そのものです。

ところで、インターネットのWebページは秘密の王国です。
その意味分かります?
個人のWeb サイトを訪れてみると、多くがコンテンツに日記(Diary)を含んでいます。
日記の面白さは、多い少ないに関わらずそこに秘密があるからです。

今あるかどうか知りませんが、鍵のかかる日記というものがありました。
日記の表紙に鍵穴があって、解錠しないと中身が読めないようになっていました。
そこに特別な秘密が記(しる)してなくても、充分にミステリアスです。
日記は本来そういう存在のものだと思います。
他人の眼を意識せず、自分の思いを正直に綴るものですね。
綴られた思いの、ある部分は自分以外には読まれたくない。
つまり、秘密です。

公開を前提とした日記は、インターネット以前はプロの作家の仕事でした。
プロの作家は思いを綴ることを職業としていますから、一般的な日記とは趣が異なります。
あくまでも創作の一部として考えたほうが良いでしょう。
又、意図しなくても職業的技能が出てしまいますから、読む方にもそれなりの技量が問われます。

一方、Webページの日記はほとんどが素人の手になるものです。
技能がないかわりに、素直といえば実に素直です。
でも、それが大切なんですね。
素直に自分と向き合うことが、日記の日記たる所以なんですから。

この時代に大量の日記が公開されている事実は興味深いものがあります。
先ほども書きましたように、素直な思いには秘密の部分が含まれます。
それをどう表現するかは各々の方法論や技量に拠りますが、その多様性も含めて面白い現象です。
やはりそこには、何かを共有したいという欲求があるように見えます。

WWWは、素粒子化した個にふさわしいメディアかもしれません。
漆黒の闇の中で電子が気紛れに交わり、そこから何かが始まるかもしれないという期待。
それは幻想かもしれませんが、実に人間的な行為には違いありません。
軍事という秘密が多い分野からスタートしたインターネットが、個の秘密で開花したのは時代の要請だったのかもしれません。

(わたしのサイトのコンテンツに日記はありませんが、今考えてみればすべてが日記のようなものです。
生れてからこのかた日記を付ける習慣のないわたしが、無意識にせっせと更新しているのは我ながら不思議です)。



他人(ひと)がどれだけ秘密を持っているは、謎です。
自分と同量なのか、多いのか、少ないのか、分からないですね。
分からないけど、自分は他人よりも多いような気がする。
わたしはそう思っていますけど、貴方はどうでしょうか。

秘密とは、何かを隠すということです。
隠すことで現在の自分を守ろうとします。
公(おおやけ)になった時、それまでの自分でなくなってしまう恐れがあるからです。
自分自身も変わってしまうことに対する恐れもあります。

別に現在の自分を肯定しているわけでもないのに、人は変化を恐れます。
人というのは本来保守的な動物なのかもしれません。
ある事実に直面したり、行為を起こした後、それを心の中で保留状態にします。
表に出していいかどうか判断ができないので保留にするわけです。

秘密には、確信的な行為や、どうにもならない事実もあります。
言いたくても言えない秘密もあります。
これらは保留ではなくて、秘密であることがどこかで決定されたものです。
この秘密は絶対公に出来ない、守り抜くしかないと決められたものです。
もしくは、公にしても意味がない、つまり秘密の方が相応しいと判断された物事です。

犯罪を犯した人がそれを隠して、逃げる。
上手く逃げおおせたにも関わらず、何年後化に自首することがあります。
又は、捕まってホッとする犯罪者もいます。
隠し通そうと思った秘密の重さに耐えかねたからですね。
これは特殊な例ですが、隠すと決心した秘密を隠しきれないこともあるのです。

出生の秘密というものがあります。
他人の場合、ドラマティックです。
自分の場合は・・・・、困りますね。
実に困ります。

困って、ず〜と内緒にしていたのだが、表に出さなくてはならないときも来ます。
例えば、恋人が出来たときとか。
悩みますね、当然悩みます。
恋人は、相手の秘密に薄々感づいています。
この人は何かを隠している、と。

恋する人は、相手と身も心も一体になりたいという欲求がありますから、秘密が許せません。
恋する人の、すべてを知りたいのです。
いろいろあった後に、秘密を打ち明ける。
そうすると、その秘密は二人の秘密になります。
秘密の共有です。

人を結びつけるものとして、秘密ほど強力なものはありません。
マイナスパワーがプラスパワーに転化して、その結びつきは強固になります。
映画や小説やテレビドラマに秘密が欠かせないのは、秘密にはドラマティックな要素があるからですね。

ドラマティックになるかどうか分からない、判断保留にした物事は心の中でヒッソリ暮らしています。
人というのは存外ズボラなものですから、判断するのを延ばし続けます。
あるとき、思いもよらぬ人から判断保留中の物事について質問されたりもします。
不意をつかれて、はからずも嘘をついてしまいます。
その時点で、それは立派な秘密になります。

判断保留から、隠した物事、隠さなければいけない物事に変化しました。
秘密は徐々に心の中で固まって、凝(しこ)りのようになって人を苦しめます。
まぁ、こういう秘密は避けたいですね。
避けれるものなら避けたい秘密です。

秘密を持ちやすい人の特徴は、自分一人で判断をしがちな人です。
相談という発想が欠けている人です。
何でも自分一人で判断しようとする。
これが、間違いの元なんですね。

二人で判断すれば、そこに客観というものが生れます。
客観から見れば、隠す必要がサラサラない場合もあります。
客観が秘密を良しとした場合でも、苦しさは相当軽減されます。
ある意味で、隠すことの必然性や消極的意義がそこに見つけられるからです。



秘密についてアレコレ考えていたら、「衝撃の告白」を思い出しました。
「衝撃の告白」、すなわち秘密の自己暴露です。
確かそれは週刊ポストの記事のタイトルで、初回は九重佑三子だったように記憶しています。
九重佑三子はポップス歌手で、テレビドラマ「コメットさん」でコメットさんを演じていた人です。

「衝撃の告白」で、清純派の歌手、女優として有名だった彼女が驚くべき数の男性遍歴と目の整形を告白しました。
世間は驚きました。
あまりにも彼女のイメージと実像が違ったからです。
整形も、当時は今と違って馴染のないものでした。

記憶を確認するためにGoogleで九重佑三子を検索したら、新事実が載っていました。
(週刊ポストの記事は1970年10月9日号でした。)
掲示板に特別寄稿という形で書き込まれていますが、本人(九重佑三子)のコメントもとっているようです。

それによると、記事はまったくの虚偽で、九重佑三子にフラれたマネージャーが週刊ポストに書かせたのが真相だそうです。
腹いせ、逆恨みでデタラメを捏造してポスト誌に売り込んだらしいのです。
(目の整形は、過密スケジュールによる過労で筋無力症になり、目が開かなくなったのを事務所の命令で整形したそうです。)
九重佑三子本人がその事実を知ったのは記事の数年後です。
元祖アイドルともいうべき九重佑三子は、記事の後あっという間にスターから転落して、知ったときには後の祭りでした。
「衝撃の告白」についての、「衝撃の告白」ですね。

記事の捏造はありそうなことですが、事の真相は分かりません。
それよりも、わたしは別の事に興味がいっています。

映画の時代、スターは秘密のベールに包まれていました。
スクリーンの向こう側には現実がなくて、光が織りなす魔法の世界しかありませんでした。
魔法は魔法で、それを覗こうとする不届き者がいない時代でした。

九重佑三子が「衝撃の告白」をしたのはイメージチェンジを図った為、と後(のち)の雑誌に書かれました。
イメチェンの為に秘密を売り渡したということですね。
今では常套手段ですが、それ以前には無かったことです。
秘密と引き換えに新しいキャラクターを手に入れる。
九重佑三子の場合でいえば、清純派から官能派へです。

ポストの記事の真偽は別にして、この手法が一般的になったのは九重佑三子以降です。
テレビが映画を凌駕、駆逐した時代からです。
秘密が、魔法から売り買いできるモノに変わってしまったのです。

カナダのメディア学者マクルーハンは、テレビはクールなメディア、と言いました。
魔法が効きにくいメディアということです。
その所為かどうかは分かりませんが、テレビは「事実」が好きなメディアです。
真実かどうかではなくて、事実が好きなメディアです。

秘密の中身は事実だけとは限りません。
事実の向こう側にも秘密はあります。
芸能は、事実の向こう側にある秘密を拠り所にする世界です。
それが秘密だから、人は魅せられるのです。

スターとメディアが馴れ合いで話題を提供するのがワイドショーです。
秘密の大安売りですね。
テレビは魔法の箱ですが、それは外見であって中身のことではありません。
テレビの中には魔法はないのです。

秘密には、それが秘密だからこそ秘密である、というややこしい面も持っています。
かなり高等な秘密です。
それは、覗くものではなくて、楽しむものだとわたしは思うのですが。



個人情報保護法案が新聞やテレビで話題になっています。
(他の二法とセットで、メディア規制三法案と呼ばれています。)
個人情報の多くは特に隠していることではありませんが、広義の秘密ともいえます。
プライバシーという秘密ですね。

それを、勝手に収集して流通、利用されるのは困ります。
あずかり知らぬところからダイレクトメールが来たりすると、アタマに来ますよね。
確かに商品の販売促進は購買層に直接働きかけるほうが効率的です。
ヘタな鉄砲を数打つより、確実に狙いを定めたほうが経費がかかりません。
狙いを定める為には個人情報が必要になります。
需要があればそれを売る奴がいて、そこに個人情報の市場ができます。

個人情報を保護してもらうのは結構なことですが、その背後には別の思惑があるようです。
報道の自由の規制です。
だから新聞やテレビや雑誌が騒いでいます。
だけど、報道の自由を錦の御旗にして人権侵害の続けてきたのも新聞やテレビや雑誌です。
弱みを逆手にとられたわけです。

どっちもどっちですが、それ以前に国家による個人情報の収集を止めていただきたいですね。
クルマを運転していると、幹線道路には必ずNシステムがあることに気がつきます。
道路の上空を跨ぐように複数のカメラを設置してあるのが、Nシステムです。
あれは交通違反の取り締まりのためにあるのではありません。
車両ナンバーを自動で読み取るシステムです。

画像はデジタル処理されて、膨大なデータベースとして保管されています。
盗難車両や手配車両の追跡が表向きの説明ですが、実態は秘密の中に隠されています。
Nシステムは、国民監視システムと指摘されても致し方ない存在です。
こういった類いの個人情報の収集を止めるのが、先決だと思いますが。

プライバシーを覗かれるのは嫌ですが、それとは別にプライバシー自体の意味にも疑問が少しあります。
日本にプライバシーという言葉が定着したのはいつ頃だったでしょうか。
言葉と社会は有機的な関連を持っています。
その辺は回を変えて研究したいと思っています。

最後は、楽しい秘密です。
子供が宝物を隠すように、貴方の心の中には大切な秘密があるでしょうか。
もし持っているとしたら、貴方は幸せですね。
大事に育てて下さい。

楽しい秘密、それは飛切りの思い出かもしれませんし、夢のような計画かもしれません。
わたしなどが知る由もない秘密かもしれません。

辛い秘密や哀しい秘密は、誰でも持っていると思います。
だとしたら、楽しい秘密だって持っているものかもしれません。
それで、秘密の収支決算を合わせているのでしょうか。
そうかもしれませんね、
だって生きているということ自体、どこかで秘密の収支が合っていることなのですから。

iGalleryにも楽しい秘密が載っています。
押し入れのバービー人形()です。
押し入れを開けたら、そこは華麗なるバービー人形の世界。
押し入れ、秘密の場所ですね。
そこに宝物がどっさり。
これは、楽しくてしかもセンスが良い秘密です。

あっ、忘れていました。
そうだ、そうだ、エッチ系の秘密もありました。

♪ あなたがかんだ 小指が痛い 
 昨日の夜の 小指が痛い 
(「小指の思い出」by 伊東ゆかり)

♪ ゆうべのことは もう聞かないで
 あなたにあげた わたしの秘密 
(「ゆうべの秘密」by 小川知子)


秘密を考察しようと思ったとき、実は真っ先に頭に浮かんだのがこの二曲のフレーズ。
(子供のとき、意味も解らず口ずさんでいました。)
密室の二人、エッチですねぇ。
この秘密の考察は宿題にしましょう。
どうして秘密なのか、各自考えて下さいね。

それでは。

<第四十六回終わり>




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