藍 画 廊



井上誠展
 - どこでもない -
INOUE Makoto

井上誠展の展示風景です。



各壁面ごとの展示をご覧下さい。



画廊入口から見て、左側の壁面です。
左から、タイトル「きざし」でサイズ145.5(H)×145.5(W)cm、「ある日」で91×72.7、「それから」で80.3×65.2です。



正面の壁面です。
「らしさ」で145.5×145.5です。



右側の壁面です。
左から「いきさき」で51.5×72.8、「こえ」で21×29.7、「そらみみ」で30×30、「どこに」で65×50、「いつもの」で80.3×65.2、「まえぶれ」で36.4×51.5、「知らせ」で36.4×51.5です。



入口横の壁面です。
左から「いちる」で36.4×51.5、「にげみち」で145.5×125です。

以上の13点が展示室の展示で、その他小展示室に1点の展示があります。
作品はすべてパネル、和紙、アクリル絵具、岩絵具を使用しています。



2枚のパネルで制作された「きざし」です。
中央に精緻に描写された黒い金魚。
蝶尾という出目金のようです。
背景には七宝と沙綾型という文様が描かれています。



同じく左壁面の「ある日」です。
涼しげに泳ぐ三尾の金魚。
季節柄、清涼感を感じますが、作品の構造は単純ではありません。
まずパネルに背景と文様を直接描いて、その上に半透明の和紙を貼ります。
そこに金魚などの生物を図鑑のように細かく描写しています。



正面壁面の「らしさ」です。
てんとう虫ですね。
文様は千鳥格子。
しかしこの千鳥格子、意図的に斜めに配置されています。
その所為で、画廊で見ると、目の錯覚でこの作品は傾いて見えます。



右壁面の「いきさき」です。
この作品、沙綾型が幾何学的な文様に見えて、不思議な感触を覚えます。
この黒の出目金、どこへ行くのでしょうか。



「どこに」です。
井上さんの用いる文様は伝統的なものですが、中にはポップなものもあります。
これはチェリー(さくらんぼ)の文様。
この他にも、イチゴ文様の「それから」という作品が左壁面にあります。



「いつもの」です。
七宝の文様と金魚が巧みに配置された佳作。
模様の後ろの背景の図柄も効いています。



「知らせ」です。
トンボのオニヤンマと静海波という文様で構成されています。
全体に構図が見事ですが、この作品も優れた構図になっています。


入口横壁面の「にげみち」です。
サワガニと亀甲花菱の文様。
文様は大きさを変えながら、マスキングを多用して描いているそうです。


〈作家コメント〉
金魚や虫といった儚くも力強く息づく生き物と、その周囲を取り囲む文様との間を隔たる和紙は、朧げでありながらも自己と他者とを遮る「境界」として存在しています。
「集団の中にいながらも時折感じる言い知れない孤独」という、誰もが一度は感じたことのある気持ちを表現できればと思っています。



力量のある作家の作品だと思います。
色彩と構図の使い方が巧みで、描写も正確。
しかも意表を突いた取り合わせが、見る者の想像力を刺激します。

なぜ金魚か。
これは誰もが思う疑問だと思います。
訊いてみました。

金魚はもともとはフナです。
その突然変異を観賞用に飼育して、交配を重ねていった結果生まれ観賞魚です。
つまり人間が作り出した生物ともいえる魚で、今や自立して生きることはできません。
人間の手を借りなければ生きて行けない魚なのです。
そのような金魚や、昔は郊外に行けばどこにでも存在していた、てんとう虫やオニヤンマやサワガニ。
そういった人間が作り出した構図が、作品の下敷きになっています。

井上さんの作品は構造的にいえば、図柄と文様、和紙、生物の図という層になっています。
肝要なのは和紙で、この薄い紙が「境界」として存在しています。
井上さんのコメントでは、自己と他者を遮るものです。
それは観念的な「境界」だけではなく、絵画の「境界」としても重要な役割を果たしています。
この独特な背景(和紙の下側)の色合いは、和紙独特の透明感が生み出したものだからです。
これがトレーシングペーパーのようなものであったならば、相当に違ったものになったはずです。

文様は集団のメタファーです。
集団の一員でありながら、ふと感じる疎外感、孤独。
薄い和紙一枚の感覚です。
その感覚を、井上さんはあえて否定しているわけではありません。
そのような感覚をありのままに表現しているだけです。
ある意味では、必要かもしれないそのような感覚を描いていると思います。

最後に金魚に戻ります。
人工美とグロテスクが紙一重で共存している、金魚。
金魚をみていると、人間の残酷さと、飽くなき美に対する執念を感じます。
それが井上さんの頭にどの程度あったか知る由もありませんが、金魚を被写体に選んだことは、的を射ていたと思います。

ご高覧よろしくお願い致します。

 

会期

2012年6月18日(月)ー6月23日(土)

11:30amー7:00pm(最終日6:00pm)



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