藍 画 廊



富田勝彦作品展
「端」
TOMITA Katsuhiko


富田勝彦作品展の展示風景です。



各壁面ごとの展示をご覧下さい。



画廊入口から見て、左側の壁面です。
9枚のパネルが連なって、菖蒲が描かれています。
綿布・アクリル・特殊蛍光塗料を使用しています。
パネルの前の床には、銀色のシートが一定の幅で貼られていて、菖蒲が映り込んでいます。



正面の壁面です。
こちらは6枚のパネルで構成されています。
作品の仕様はすべて同じです。



右の壁面です。
10枚のパネルですが、菖蒲の色が壁面ごとに異なっています。



入口横の壁面です。
5枚のパネルです。

以上展示室には、菖蒲が東西南北、合計30枚のパネルを使って描かれています。
その他小展示室に5点の作品が展示されています。
(小展示室の入口は布で覆われていますが、中に入れますので、お見逃しなきよう。)



富田勝彦作品展には、幾つかの仕掛けがあります。
その一つは、絵の映り込みです。
菖蒲の花と葉が川面に映っているように、絵の前面に川のように銀色のシートが貼られています。
上の画像の下部が、その映り込んでいる様子です。



正面壁面のダイナミックな菖蒲の図です。
富田さんは季節ごと(月ごと)に花を描くことを、ライフワークにしています。
時の移り変わりと人の一生を重ねて、人間が自然の一部であることを表しています。



画廊空間をぐるりと囲んだ、今回の菖蒲の図。
その根源には五行の思想があるそうです。
五行とは中国古代の世界観で、菖蒲の色も方角によって決められているそうです。



菖蒲のクローズアップです。
菖蒲の色は同じ色(黄色は同じ黄色)を使っているそうですが、背景の葉の濃度によって、明度や彩度が違って見えます。
これも仕掛けの一つですが、花の背景である、葉の縦のストロークを見て欲しいという富田さんの強い願いが込められています。
それが展覧会のサブタイトル「端(たん)」にも表現されています。




絵の具に特殊蛍光塗料を使用してあるのは、絵に時間を組み込むためです。
ブラックライトを使い、白熱のスポットライトを消すと、ご覧のように夜の菖蒲が浮かび上がります。
これも仕掛けの一つで、三次元のインスタレーションに時間という次元を加えています。
(そして会場で静かに流れる音楽も、時間を感じさせます。)


前回の藍画廊の富田さんの個展、樹齢一千年を超える「滝桜」を描いたものでした。
その時、歌舞伎の舞台を例にとって、富田さんの作品の「装置性」に言及しました。
今回も同じような感想を持ちました。
その装置性は、大衆的なポップな感覚に支えられた、親しみやすいものです。

富田さんは自身の表現を記したプロフィールの中で、次のようなことを書いています。

「老若男女、民族、宗教を問わず、理屈抜きで”気持ちよさ、心地良さ”を感じる」ことができる”もの”を制作していきたい。
それは、”自然美”から受ける”やすらぎ”を体感し、表現していくことである。

この考えの背景には、青年時代からのアフリカ、アジア旅行の経験があります。
そこで、自然とは何か、人間とは何かを、身体で思考しました。
とりわけ、「場」の問題、つまり場の持つエネルギーに深く関心を持ったそうです。

藍画廊という「場」。
それはたった一週間の場です。
その一週間のために、富田さんは心血を注いで作品を制作しました。
物理的な場は一週間ですが、鑑賞者の心の中の場は一週間ではありません。
その自然美から受けるやすらぎは、しっかりと根を下ろすでしょう。

富田さんの作品を見ていると、昨今の環境問題の不可思議さに気がつきます。
「環境に優しい」、「地球に優しい」。
こういったキャッチフレーズの主語はどれも人間です。
これは人間の思い上がりではないでしょうか。

自然があって人間がある。
その人間のできることなど、たかが知れています。
それよりも、自然を感じることの方が大切です。
五感を通して、自然と交信する。
そこから、物事は始まるような気がします。
画廊に咲いた菖蒲は、わたしに、そう語りかけているように思えます。


ご高覧よろしくお願い致します。

2003年藍画廊個展
2006年藍画廊個展

作家Webサイト



会期

2010年5月24日(月)-5月29日(土)

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内