藍 画 廊



山内賢二展
ー1mノ旅ー
YAMAUCHI Kenji


山内賢二展の展示風景です。



各壁面の展示をご覧いただきます。



画廊入口から見て、左側の壁面です。
左から、作品タイトル「WILD FLOWER」で、作品サイズ 145.5(H)×145.5(W)cm、「ユメノママ」で25.8×18.3、「SKY CHILDREN」で33.3×19.0です。



正面壁面の作品です。
左から「アキレス」で181.0×136.3、「みみのふもと」で45.3×37.9です。



右側の壁面です。
左から「1mノ旅」で116.7×91.2、「おなじ話」で135.1×91.3、「BRUNCH」で53.0×45.5です。



入口横の壁面です。
左から「costume」で30.0×30.0、「twins」で30.0×30.0です。

以上の10点が展示室の展示で、その他事務室壁面に1点の展示があります。
作品はすべてアクリル・綿布・パネルを使用しています。



左壁面の「WILD FLOWER」です。
鮮やかな色彩の絵画ですが、純然たる抽象画ではありません。
山内さんが本展について記したテキストがありますので、以下に掲載いたします。

1mノ旅

「ストーブに触れると熱い」
作品制作はそのような、もはや誰もが知り得ているはずのことをいちいち(疑っては)再確認するといった行為に似ている。

普段の生活の中で意識的にものを見つめるといったことは案外少ないように思われ、また、そうすることには、かえって違和感を覚えます。
現実とイメージの間には、もはや決定的な差異など殆どなく等価であり、人はそこを無自覚に往き来しているように見えます。

思い出そうとしても肝心なことはすっかり抜け落ちてしまって、ただ脈絡なく鮮明に蘇るのは……取るに足らない役に立ちそうにもない場面ばかり。
脳裏に留まるのは思いの外、そういうものではないでしょうか。
自身にとって肌で感じられたこと、生理的な反応、ふとした瞬間に頭を過る記憶等は何にも増してリアルに感じられます。

見過ごしてしまいそうな些細で曖昧な断片の数々。
それらとの出会いをひとつの手がかりに、そこから新たな地平を拓く必要性を感じます。

制作過程上で生じる偶発的な出来事、視線の遮り、或いは、皮膚という薄い膜を通じてこそ知覚可能な触覚的質感を画面に与えること。
そこに立ち現れる場から事物の確定性を回避し、観者と多様な複数の感覚を共有できればと考えます。

かつて、誰もが幼く無防備だったころに感じられた高揚と緊張感。
実に「日々」は依然、色褪せてはいないのです。



正面壁面の「アキレス」です。
アキレスはホメロスの叙事詩「イリアス」の主人公ですが、アキレス腱(アキレスの唯一の弱点)で有名ですね。
犬(画面青緑の部分)がモチーフになっていますが、それにとらわれず、画面全体の色と形を楽しんで下さい。



同じく正面壁面の「みみのふもと」です。
ヘリコプター(軍事用か?)が二機、対称に描かれています。



右壁面の「1mノ旅」です。
展覧会のサブタイトルにもなっていますが、面白いタイトルです。
ピンクの色面が美しい作品。



右壁面の「おなじ話」です。
これは水面に映る景色がモチーフになっています。



入口横壁面の「costume」と「twins」です。
「costume」は犬の服がモチーフで、「twins」は画面通りで説明の要がないですね。



山内さんの描く絵画は美しい。
しかしそれは、美しい景色やモノを、視覚が捉えて描写、再構成したものではありません。
皮膚の感覚、生理的な感覚を視覚化(絵画に)したものです。
それは日常の採るに足りない事物かもしれませんが、それが本当にそうなのか断言はできません。

「1mノ旅」。
たった1mの移動を(普通は)旅とは呼びませんが、しかしそれは旅です。
「ストーブに触れると熱い」という事実を確かめる、重要な旅です。
わたしたちの生活は記号で成立っています。
視覚が記号を認識し、特に何の発見もなく、時が過ぎて行きます。

「ストーブに触れると熱い」。
山内さんは、そのような事実を確かめるのが美術家の仕事だと言います。
わたしも、同感です。
ストーブに手を近づけると、どのように熱いか。
その熱さは、快感であり恐怖でもあり、何かを思い出させる熱さかもしれません。

子供の絵が色彩に満ちているのは、「ストーブに触れると熱い」ことを実感しているからです。
それがだんだん既製の事実となって、大人になるに従って、日常の彩度は落ちていきます。
美術家とは、もう一度「ストーブに触れると熱い」ことを提示する仕事です。
そして、そのことが生きる、生きているという事の証左であることを思い出させる仕事です。
絵画とは事物の描写ではなく、そのようなものであると、わたしも思います。

ご高覧よろしくお願いいたします。


会期

2010年3月1日(月)-3月6日(土)


11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


会場案内