藍 画 廊



齋藤正人展
日本印 今だから日本
SAITOH Masato


齋藤正人展の展示風景です。



多数の像がありますが、齋藤正人展は全体で一点のインスタレーション作品として展示されています。
作品の素材はすべて陶です。



インスタレーションは、大きく分けると、(画廊入口から見て)前右側と奥左側のブロックになります。
前右側は六つの狛犬と城、城壁で構成されています。
上は、城と城壁を背景にした狛犬です。

本展の展覧会タイトルは「日本印 今だから日本」です。
展覧会について齋藤正人さんが記した案内文がありますので、転載させていただきます。

「日本様式」をテーマとする展覧会を開催いたします。

今回は日本の建築や装飾、伝統や芸術を形として捉え、造形陳列するものです。
この行為を通して日本文化のアイデンティティーを現代に呼び込もうとする目的もあります。
現代に至るまでの生活や流行が形作ってきた日本のフォルムには、時代を超えた文化的パターンが見られます。
そのパターンと共に培われてきた精神性にも、日本的な特質は表れているものと考えます。
この「にっぽん」の拡大と連続の行為からなるかたちを、私は「日本様式」と呼びます。



お城の天守閣です。
誰もが知っているお城の意匠、様式ですが、このお城は平地や丘陵に築かれた平城、平山城と呼ばれるもののようです。
作品は陶ですが、それで思い出したのが、幼い頃に使っていた貯金箱。
半世紀も前の話で恐縮ですが、当時の貯金箱は陶製が多く、赤い郵便ポストやお城などがポピュラーでした。

貯金箱は安物の陶製だったので、貯まったら金槌で割って、お金を取り出しました。
プラスティックの普及していない時代、陶は日本人の生活に欠かせないものでした。
(駅で売っていた陶製のお茶の容器も、貯金箱と同様なチープな親しさがありましたね。)

上の画像で注目して欲しいのは、城を見上げている狛犬たちです。
何ともキュートな表情です。



右側に設置されている二つの狛犬像です。
右は丁髷(ちょんまげ)をしていて、太い眉にギョロ目の人面相。
どこぞのオジさんといった様子です。
左はキツネのような馬のような姿形で、頭部には覆面状のものが。

展示された像は、齋藤さんが狛犬を自由にデフォルメしたものですが、とにかく面白い。
デフォルメの具合や表情の多彩さ、陶の特徴を活かした色や質感の表現。
見飽きません。



左側に設置された狛犬ですが、沖縄のシーサーに似ています。
齋藤さんのお話では、狛犬もシーサーも同根で、古代オリエントやインドの獅子(ライオン)がルーツだそうです。
確かに獅子舞の獅子頭と同じような顔つきです。
Webで調べてみると、狛犬は高麗犬とも書いて、日本で最初に像に接した時に、高麗(外国といった意味)の犬のような印象を受けて、そう名付けたようです。

わたしたちが狛犬を見かけるのは社寺の参道です。
その昔は、一対の左が獅子(阿形)、右が狛犬(吽形)と呼ばれていましたが、江戸時代に入って単に狛犬となったそうです。
阿形とは口が開いている状態で、吽形は口が閉じている状態、合わせると阿吽(あうん)になります。



左奥に設置された狛犬です。
どうです、この表情。
楽しいですね。
この狛犬は河童に似ていますね。



左奥のブロックの作品です。
手前は墓石のある様式を拡張して、齋藤さんが作り上げた位牌の形です。
描かれているのは花菖蒲です。

その上は鬼瓦で、波の模様に文字と日本地図が描かれています。
本展のタイトルともいえる像です。
一番上は同じく翁が描かれた鬼瓦ですが、この蔵のような形と絵は実在する様式を基にしています。
鬼瓦の梅の紋は、来歴は不明ですが、鬼瓦の紋といえば梅に決まっているそうです。

右側に設置されたのは灯籠です。
灯明を安置する用具ですが、日本では石の灯籠を多く見かけます。



すっかり楽しんでしまいましたが、形の意味を考えてみると、興味深いものがあります。
普段何気なく見ている造形物ですが、古人の気まぐれで出来たものではありません。
一つ一つの形には意味があり、歴史があります。

多彩な狛犬ですが、もともと狛犬はバリエーションが多いそうです。
イノシシ、龍、キツネ、オオカミなどの像があり、神道では神使(しんし)と呼ばれています。
それも踏まえて制作された齋藤さんの像ですが、やはり独特の親しさを覚えます。
狛犬は守護や魔除けとして置かれたと思いますが、古来の宗教、神話の世界観の一環として存在しています。
その精神性を、現代的な感覚とユーモアも含めて、齋藤さんは陶で表現しています。

建築の様式も単なるデザインではなく、風土に対応した知恵や工夫、警鐘があります。
例えば文字と日本地図の描かれた鬼瓦の波模様、これは火事にたいして水を意味しています。
木と紙の多い日本家屋は燃えやすく、火災は大災害に発展します。
それで鬼瓦は波の模様になっているそうです。
(これは齋藤さんからお聞きした話です。)

齋藤さんの作品に込められているのは、本当の意味での豊かさです。
現代生活の物質的な豊かさは快適で、手放す気にはなれません。
しかしその豊かさには限界がなく、レールの上を走り続けなければなりません。
一方で、わたしたちの精神世界は、それと反比例するように貧しくなっています。

わたしたちは何かを失ったことに気付いています。
しかし、何をどのように失ったかは分りません。
建築やモノの形の様式には、意味や理由があります。
それを問うていくと、総体としての文化が見えてきます。
その文化が、齋藤さんの名付けた「日本様式」ではないでしょうか。
そしてその精神性に、豊かさの秘密があると思います。

ご高覧よろしくお願いいたします。





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会期

2009年6月15日(月)-6月20日(土)

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


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