藍 画 廊



中村元展
NAKAMURA Hajime


中村元展の展示風景です。



床に電気製品のようなものが数多く置かれています。
数えてみると九台(個)。
どこかで見たような形状ですが、用途が思いつきません。

しばらく眺めていると、突然、床の機器の一台からジュッという音が聞えてきます。
間を置いて、他の一台からも、ジュッという音が。



機器です。
中央の円形に見覚えがあると思ったら、コーヒーメーカーのヒーター部分と同形でした。
つまり、これは中村さんが自製した電熱器(ヒーター)です。
(ページ一番上の小さな画像が電源を供給しているタップです。)

音は、天井から落ちてくる水滴が熱いヒーター部分に当たって、瞬時に蒸発する時に発するものでした。
水を熱いフライパンに垂らした時に発する、あの音です。
水滴は、天井近くの照明用フレームに隠された、透明の細いチューブから落ちてきます。
落ちる間隔は制御されていて、一定のリズムを持っています。



画廊には中村さんが記した小文が置かれています。
それを転載いたします。


落下する水滴が熱いプレートの上で蒸発するとき、
何を連想するでしょうか。

水の気化。料理を待つフライパン。夏の日の舗装道路。
こどもの水遊び。

蒸気となって霧消する水滴に、
儚い思い出を重ねることができるでしょう。

私は落下する水滴や、立のぼる蒸気に、
ある種の侵犯や悪意というものを考えていました。
静けさや、安らぎに横槍を入れる不意のできごと。
いやな知らせ。悪い夢。
天井裏から毒薬を垂らして、寝ている男を殺す小説が
昔ありました。

私の場合、そういうことを考えていました。

2007年3月12日  中村元


中村さんの作品を見た時の印象は、やはり後段の不意の侵犯や悪意に近いものです。
一滴の水が喚起させる、漠然とした不安です。

不安は、先が見えないことから発生します。
何がどうなっているの分からないので、対処の為ようもない状態です。
原因や対象が分かっていれば、それを解消する手立てに頭が回りますから、不安は和らぎます。

大量生産品を模したハンドメイド。
これは
前回と同じ手法で、現実とは微妙に位相のズレた世界を現出させることに成功しています。
何ともいえない居心地の悪さは、その疑似性にあります。
しかしその疑似性が、却って現実世界の核心を映すのが、中村さんの作品の特質です。

ツルンとした白い機器。
用途も不明なまま、それはそこに置かれている。
床を這い回る、黒くて太いケーブル(コード)。
時折する、不可解な音。

現実世界で、近い体験といえば、病院かもしれません。
高度にシステム化された、生と死が混在している場所。
あの無機質な空間の居心地悪さは、似ています。



画廊内のインスタレーションの他、芳名帳スペースには三点の油彩(バネル)が展示されています。
モチーフはインスタレーションで使用した、白い機器です。
インスタレーションに比べると、ちょっとユーモラスな感触がある平面です。
それは機器の形状と曲面に由来していると思います。

平面を見ていると、(中村さんの意図とは離れるかもしれませんが)、ある想像が湧いてきます。
デザインの問題です。
白い機器には、ある種の親しみやすさが表出されています。
人が抱くであろう恐れを和らげる為です。

用途が不明なまま置かれた白い機器には、親しさがあります。
(作家によって、シミュレートされた親しさですが。)
それはデザインですが、親しいというメッセージを含んでいます。
インスタレーションで半ば剥き出しにされた親しさは、皮肉なことに、不安を和らげるどころか助長しているような気がします。
親しいというメッセージだけが宙に浮いて、その内実が不明だからです。
これは、デザインの本質的な問題を含んでいるのかもしれません。

ご高覧よろしくお願いいたします。

2006年藍画廊個展

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会期

2007年3月12日(月)-3月17日(土)

11:30am-7:00pm(最終日6:00pm)


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